流れる、こぼれる、溢れる、にじむ

 

涙は色んなあらわれ方をする。

 

僕は今まで、人前で涙を流すことを極力避けてきた。

 

恥ずかしいし、自分には涙が似合わないと思っていたから。

 

どうしようもなく悔しかったり、どうしようもなく嬉しかったり、そんな時に今までの僕はどうしていいのかわからず、感情をうまく処理できずにいた。

 

ただ、この上なく感情がたかぶった時、言葉より先に涙が出てくることがある。

 

涙が出てからその涙の理由を考えるのだ。

 

「そうか、泣けばいいんだ。」

 

嬉しすぎて涙が溢れたとき、それに気付いた。

 

涙は心を浄化する。

悔しさも、嬉しさも、切なさも、悲しみも。

それまでモヤモヤと煙のように掴めなかった感情は、涙を流すことでスッと心に落とし込めるようになる。

 

心を浄化するってきっとそういうことだと思う。

 

言葉に言い表せない感情のたかぶりを、涙は処理してくれる。

 

涙を流すという行為は、決して恥ずかしいものではないな、今ではそう思う。

 

どうして泣いているんだろう。

 

そんなことを思う時もあるけど、そんなの後で考えればいい。

今はただ、思い切り泣けばいい。

そう思うことも増えた。

 

 

ある人が泣いていた。6月の夜だ。

複雑に入り組んだ感情がうるうると溜まっていき、やがてそれは大粒の涙となってポロポロとこぼれた。

頬を伝うのではなく、ポロポロと下に落ちるのだ。

泣いている人を見ているのにこんなことを思うのはいけないことなのかな、そんな風に感じて口には出さなかったけれど、綺麗だった。

綺麗な涙だった。

 

今は言葉なんていらない時か。

 

そう感じた僕は、黙ってこぼれる涙をハンカチで拭った。

 

本音を言えば、なんて声を掛けてあげようか、涙を拭く時間で考えていたのだけれど。

 

 

 

いつでも涙を流せるように、そして、あなたの涙を拭ってあげられるように、綺麗なハンカチを持って、今日も出掛けよう。

 

夏のはじまりに思うことでした。

 

 

おしまい